太極整体の基本理論

■心身の動きを見直す

心身の自動的な反応、すなわち人間には癖のようなものがあります。

体の不調などは、一度それらをニュートラルに戻してしまってから、新たに、自然な心身の反応を身につけていくと、根本的な改善が見られるときがあります。

太極拳では、病気や怪我の原因となる癖や習慣を取り去り、全く最初から自然な動きを身につけることで、心身を修復し、強靱な心身を作る方法があります。

よく、武道などに入門するときは、初生の赤子として修行することを誓わされます。これは始めて生まれた赤ちゃんのように、今までの心身の癖を捨てて、正しい動きをニュートラルから身につけるという理屈です。

不定愁訴や、調子の悪い心身は一度ニュートラルに戻してしまい、それから最も理想的な心身の動きを行っていけば、一挙に改善されるということが理屈としてはわかります。

まずその前に、今までの心身の癖や習慣を、それをやめていくことが必要です。

頭や首、背中は密接に関連して動いているので、また心理的なことも影響して、人間の体は動いていますから、ニュートラルに戻すと言ってもそう簡単なものでもありません。

長期間の厳しい断食などは、そういう意味では、心身と内臓をニュートラルに戻す一つの手段です。

人間の心身は、不自然な動きも日常的に行われていれば、それを補おうとする心身が育ちます。
しかし、その不自然な動きと、それを補おうとする動きは心身に緊張や負担を与えます。そして、それに慣れてしまっているので、それを補おうとする動きから離れることはできません。従って不自然な動きに気づきません。

そして不定愁訴や易疲労、そしていつの間にか病気や怪我を招いてしまうのです。

そこで、その補おうとする動きを見つけ出し、それをやめることから始めるのですが、それをやめると、不自然な動きを補うことが無いので、疲れてしまい、より体調や怪我が悪化します。

だからといってまた補った動きに戻るといつまでも改善しません。

ですから、補った動きと不自然な動きの両方を一挙にやめてしまうことが必要なのです。

例えば、首や肩が痛いと悩んでいる人がいて、整体に行こうが病院に行こうが改善しません。実際に体を動かしてもらったところ、確かにそこが痛くなるような体の動かし方になっているからです。それは、腕や肩の本来自然に動くところが固定されて、そこが動かないように癖になっていました。もちろん痛いでしょうから、そこが痛まないようにと心理も働いています。これも癖です。無意識に痛みから遠ざかろうとしているのです。

日常生活に不具合や痛みがあったり、不快感があると、何らかの補う行為でそれを消し去って、少しでも早くなかったことにしたくなるものなのです。

自然な動きでしか動けないようにしている太極拳の型を正しく行ってみたときに、痛みや不快感があれば、それはとても重要な情報なのです。

ですから、痛みや不快感があるからと言って、そこから逃れる動きをしたり、補う動きをしてしまうと、これではいつまでたっても体の癖や心の癖が改善されることはありません。太極整体は、重傷者の場合は、痛みのある場所を直接動かさずに、そこにつながる場所を動かしながら、整体する術もあります。

根本的なところから不自然な動きを改善しないと、いつもそれを補い、痛みや不快感が通り過ぎるのを待ち、なかなか通り過ぎないことにいらだち、辛くなってしまいます。

これをいつもやり過ごしてしまう心も、癖になってしまっているのです。この時はとても大きな緊張に包まれ、この緊張がより、不定愁訴や痛み、不快感を助長していきます。膝や腰の痛みは、ひどくなるとヘルニアや損傷を招きます。

ですから、まず自然な動きができる太極整体を学び、最初は不快感と異様な痛みや、ぎこちなさに襲われるかも知れませんが、その痛みや不快感を情報源と捉え、普段、なかなか意識できない身体のことを意識し、その痛みや不快感を探し続けて、それが無くなるまで自然な動きに近づいていけばいいのです。

自然な動きで、ほとんど痛みやぎこちなさや不快感が無くなれば、そこで、自然な動きを楽しく続けていけば良いのです。痛みや不快感に目を伏せてしまうのでは無く、痛みや不快感を受け入れていくことです。

■自然な動きの太極拳

日本でとても流行っている楊式太極拳の套路をご覧になったことがあるでしょうか。多くの本が出版され、インターネットなどですぐに見ることができます。公園などでもよく見かけます。

本来のものはとても大きな動きで、とてもおおらかです。最近の太極拳教室では、その自然な動きから逃げて、痛みや不快感を補いながら小さく動くところが多いようですが、もともとは形も拘り無く、自然におおらかに動く運動です。

その大架式(大きく暢やかにおおらかに動く)の要素には、体の各部分をどこまで自然に動かせるかということがあります。

そこで、その動きをしていると、痛くなったり、不快感が表れる、体が動く限度や速さ・角度が見つかります。限度を越えるときにゆっくり動くとどうかとか、角度を変えるとどうかとか、その痛みや不快感を感じているときにどのような気持ちになるかとか、痛みや不快感の中心が見つかったり、その周辺の感じや、体の他の部分との関連などが見つかっていきます。

このような情報は、頭で感じるのではなく、心身が覚えていきます。自然な動きは太極拳という動きできあがっているので、その動きに近づいていこうとする過程でどんどんクローズアップされるのです。その中で、その情報を一つづつ改善していくということです。

太極拳の自然な動きを気持ちよく行えたとき、心身はニュートラルに戻っています。それに従って動いていって自分の不自然な癖を見つけ、心身をニュートラルに戻す方法です。補った動きはしませんから、しばらくは、自然な動きに違和感はありますが、それを楽しみながら乗り越えていきます。

■声が出ない原因

ミュージカル女優の方で、不定愁訴に悩まされる毎日の上、舞台上で声が出なくなるという致命的な症状に見舞われ、声を出そうと思えば思うほど、声が出なくなり苦しんでいる人がいました。

元々声の出し方に不自然な体の動きがあったため、それを補う動きで声を出していたところ、その補う緊張した筋肉が破綻し、心も緊張して「声を出す」と張り切っていたため、その癖でより緊張して声を出そうとしたため、その悪い相乗効果で声帯の圧迫が極度になり全く声が出なくなってしまったのです。

友人のすすめで、太極拳を取り入れた彼女は、身体の自然な動きが身について、不定愁訴は全くなくなったのですが、元々の声の出し方では昔のように大きな声は出なくなりました。

太極拳の自然体で立ち、お腹を膨らませながら息を吐く方法で発声したところ、自然な発声ができるようになりました。不自然な声の出し方を補って声を出し続けるか、元々の自然な声の出し方で、何もせず声を出し続けるか、人間の生活もこれと同じことだと思います。

人間の無意識的な習慣や癖は、何かをしようという際にそれを補う反応を生じ、この習慣的な反応を抑制する不自然な運動を行おうことから緊張を生じます。これが不定愁訴や、痛み、不快感の根本的な原因になっているのです。

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