書籍出版10周年を迎えて──次なる一歩、「楊式85式太極拳」の真髄へ

2014年に出版した拙著『簡化24式太極拳で骨の髄まで練り上げる技法』は、おかげさまで多くの読者の皆様に支えられ、出版10年を超えることが出来ました。本書では、24式太極拳を通じての「行気(ぎょうき)」の技法をも紹介し、すなわち“気”を効率的に全身へ巡らせ、骨の髄にまで浸透させる武当山伝統の体得法を初めて公開し、多くの太極拳愛好家の方々に新たな修練の視点を提供できたと自負しております。

現在私は新たな書籍の準備に取り組んでいます。「武当山伝統の楊式85式太極拳」この奥深く優雅な套路の中に息づく、本格的な「行気」の技法を、今改めて現代の言葉で、かつ体系的にご紹介しようとしています。… 続きを読む

85式太極拳・進歩搬攔捶の輪拳という発勁

本日の夜間クラスは、白蛇吐信から進歩搬攔捶。進歩搬攔捶の搬から攔捶への過渡式にある、右拳の動きは「輪勢」という円軌道によって動く。この輪勢で打ち込む捶は下方から後方、上方から下方への円回転から発せられるので、全重心が上方から下方へと乗っていく発勁となる。その上次の左盼によって偶力(十字勢)も加わり、相手の極点に全重力を持って差し込むという効率的な鑚拳となる、太極拳独特の理を持った発勁となる。輪勢を持っているので輪拳とも呼ばれ、相手の突きをこの輪拳の最初の下方から後方の円回転で全重力を相手の突きに乗せて後方に運ぶので「搬」となり、相手は引き込まれるように崩れながら、鑚拳を打ち込まれる。招式として行うこの技は、「開山鑿洞(かいざんさくどう)」で武当山では日常的に招式として寸当てで行っていたそうです。… 続きを読む

85式太極拳・白蛇吐信は放鬆の極限で発勁


今日の夜間クラスは白蛇吐信。終盤に出てくる通常は撇身捶のところで白蛇吐信の尖掌を打つ。撇身捶は「裏勢」にて巡るべき巡る短打を繰り出す型で、最後に裏勢を飛び出して戻ってきた撩拳にて過渡式となる。
白蛇吐信は、放鬆によって経絡が閉じる(合経)により、その最も中心にある人間の矢状面を走る中心線「中(ちゅん)」に収斂した右手がまるで蛇の下のように繰り出される。
収斂したときには、蛇が舌をぐっと喉の奥にため込み、そこから口を開けて喉の奥から舌が飛び出し様な発勁となる。… 続きを読む

知られざる手揮琵琶

syukibiwarozen 楊家の三世、楊澄甫氏が演じるこの型は、太極拳の中では最もシンプルな型に見える「手揮琵琶」です。以前に実戦空手の髙段者にこの型を披露したことがあります。その彼は前足の虚歩の場合の構えは、空手の場合は猫足だといい、太極拳の構えとは違うというのですが、とんでもない、太極拳でも虚歩の構えの場合は猫足ですよと説明したことがあります。また、手揮琵琶には弓歩の構えもあり、古式楊式太極拳の実際の套路の過渡式に含まれています。
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護身

IMG_0085 ひ弱な女性や、年配者にとって、強力な筋肉と打撃力をつけて身を守ることなどナンセンスです。

 私の弟子の30代の女性たちを筆頭に、ほとんどが小柄でひ弱ですが、初心者でも強烈な護身能力を持っています。
 本来の太極拳は、寝たきりのおばあさんがとても重いタンスを火事場から持ち出したような、火事場のクソ力を、平常心で引き出す訓練をします。
意識的に鍛えた力は、潜在能力(無意識下の能力)の約10%程度しか発揮できません。
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楊式太極拳と柳生新陰流の「勢法」

7023 武当派の楊式太極拳は勢いを重んじます。十三勢という基本勢があるため、十三勢とも呼ばれます。その勢が形に表れるのを「型」といい、型の連続が套路です。

 武当派では型のできあがりの経過を「勢法(せいほう)」と呼び、形という心身に現れる精(せい=心身)の結果は、勢いの表れであることを重視します。
 従って太極拳は、心意によって起こる気勢によって運ばれ、結果として形がある事で、気勢を陰、又は暗、形を陽、又は明として、双方一体として太極として考えるのです。
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4次元の太極拳

 太極拳は十三勢と呼ばれます。

十三の勢には、まず四正手があります。

四正手は、右攬雀尾では、掤は進行方向に向かって右前上から扌履は左後下、擠は前、按は後下から前と、右交差の3次元を描き、左の攬雀尾で左交差の3次元を描き、幅、奥行き高さである空間を全て網羅します。身の幅、眼の奥行き、手の高さの三尖で空間を描くということです。

そして四隅手ですが、野馬分鬃では、靠肘挒で因縁果の三節になり、現在から未来への時間軸を構成しています。後ろ手の採はその現在を身の中心線とすれば、三節に伴う過去の時間を表しています。靠肘挒の勢は採勢が力点となっているのです。そして中心線が支点、そして靠肘挒が作用点です。靠肘挒と進む長勁は後ろ手の採勢が力点となり、身体の中心線が重要な支点として発勁されます。… 続きを読む

呼吸は生きる。息(いき)る。生命の要。

最近の話題作映画「ハプニング」、日本でのメインフレーズは「人類は滅びたいのか」。

この映画の中では、植物が何らかの有害物質を空気中に放出し、人間がどんどんおかしくなり死んでいきます。この映画が提供しようとしているメッセージは人類と植物の関係から、人間の生命の営みである呼吸に深く関わっていくことで、生命の根幹をも脅かすかも知れない大気という空間に目を向けたもののように思います。

もともと人間にとって、大気中になくてはならない酸素は地球誕生時の大気には存在していませんでした。しかし、植物のような光合成を行うものが出現したことで大気には徐々に酸素が蓄積されていきました。まるで植物が、地球を制覇しようとするような勢いだったという人もいます。… 続きを読む

金鶏独立の勢

金鶏独立は85式では、独立式、24式では下勢独立として、套路で練習します。

金鶏独立の勢は上下方向に交差する十字勁を中心として、上手には中心勢を維持しながら、挑勢(下からの振り上げ)、裏勢を肩より上で働かせます。

これにより、金鶏独立は長勁として完成します。
下の手は採勢です。腰腿も十字勁によって,上手の方の足は上に、下手の方の足は下に沈みます。
以上は金鶏独立の鑚勁と長勁の用法です。

金鶏独立は、中心線をねじりながら、腰腿によって、上腿を下腿側にねじ上げて、下の腕をその上腿の膝の外側に採勢によってへばりつけます。… 続きを読む

海底針と双龍拉椀

海底針は太極拳における裏勢(りせい)=(体の内側を使って抱き込むような勢)を習得する重要な招式です。

双龍拉椀(そうりゅうらわん)は海底針の示意であり、相手の手首の内側を双龍の上あごで、外側を大小の拳頭を下あごでひしぎ噛んで上あごを裏勢にもとづき内側に引き込み、上あごを前側へ押し噛んでいく手法です。

この裏勢がないと、以上の拉勁は発勁とはならないのであり、重要な練習方法となります。

海底針の裏勢は多くの擒拿術に含まれますが、この双龍拉椀は最も基本的な示意なので、単法として相対で練習をします。… 続きを読む