雷の光を見て耳をふさぐ

太極拳の実戦的動きを表現するときに、緩やかに速いといわれます。

なぜ緩やかに早いのか?拳のスピードや、動きの速さもそうですが、太極拳の心法に理由があります。

心法においての太極拳の発動の仕組みは、雷が光ると、耳をふさぐという例えになります。

雷鳴がなり始めると耳をふさぐ反射神経は、後天的に備わっています。

雷は光と音と衝撃がその全体です。
音の前には光があり、音の後には衝撃があります。
相手が拳を打つ前を気勢、打った拳が音、自分に当たるところが衝撃として考えてみます。

気勢の光を見て、次に来る相手の拳を制すための動きが始まります。
そして、その後の衝撃に同化し、自らの勢を発します。

例えば、楊式太極拳の圧掌打虎という招式の場合は、相手が打ってきた上段進歩捶(拳を縦にして型の線で真っ直ぐに打ち出す拳)を圧掌(上から下へ圧して拳を掌で押さえる)で受けて、背勢に入り打虎式を相手の太陽穴に打ちます。その後は背勢にいるので自由自在に相手を次の技で制します。

相手の気勢があったときに、相手が打ち出した拳を心法において受けているのです。 これが雷の光を見て耳をふさぐと言うことです。

上段に目の前に繰り出された相手の拳は、すでに圧掌で受け終わっていて、すでにその時には次の動きがあるのです。

次の動き、すなわちこれが採勢(下に抑え込む勢)や拍勢(拍手のようにはね飛ばす勢)などの動きです。

圧掌から、例えば拍勢が相手の拳を先に捉えて、相手の勢を崩します。 これは、光を見たときに耳をふさぐ動作、すなわち圧掌があり、相手が音を発したすなわち拳を吐き出したときに、こちらはすでに圧掌を終えて、拍撃を相手の腕に加えて、相手の身体の勢を崩しているのです。 そして、相手は運動神経により、勢を立て直そうとします。これが衝撃です。

勢が崩れていないと、相手は自分の勢で新たな攻撃、または守りを行います。

雷の光、音、衝撃を一つの纏まりとしてみることができると、この衝撃が有ることも知っています。 相手が身体を立て直すという虚勢を知っているのです。

この虚の間に、こちらは相手の背勢に入って打虎(腰腿を使ってフックのような鍵型で打ち込む特殊な打ち方)を太陽穴に打ち終わっています。 これが、圧掌打虎です。

背勢に入って打虎を打つには、相手に0.5の虚をいつも造り上げていきます。

光を見て耳をふさぎ、音を聞いたときには、身を弛め、衝撃があったときにはもうそこにはいない。 太極拳の心法の一つです。

その0.5の間を無極といい、虚も実も無く、ただとてもおだやかな静寂さがあります。

相手が止まっているようでもあり、また、自らはとても心地良い感覚になります。 光を見て耳をふさぐ先導を、潜在能力の中から思い出し、この境地を目指します。

套路においての過渡式は、この無極の修得にとても重要です。ふっと気が遠ざかるようなおだやかな感覚。実戦においてもこの感覚がとても重要な観自在な心法を生み出します。

相手の隙を虚を見いだして、それを先駆けるのはこのような心法によって成り立っていきます。

相対練習の際には、実戦と同じような心構えで、このような心法を鍛錬することはとても重要です。

総合教程

招式(圧掌打虎)

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