楊式太極拳の武器術

 楊式太極拳でも武当派は、武器に対する考え方には特徴が有ります。

武器を使用するための太極勢法が我が身に思い出されれば、どのような武器(末尾****武器参考***)もその太極の理で使用でき、逆に、その太極の理が無いと、どのような武器も小手先で使用することになり威力をもたないという考えです。

また、武器から始めると、その武器の機能に支配され太極の理を思い出すこと無く、その武器の能力によってまるで武器を使えるように勘違いし、武器に支配されていることになるので、武器術の最も要を「白打」であると武当派では結論しています。白打とは徒手拳法のことです。「白打」で高手になるまでは武器を持たないという姿勢です。

■太極拳は下記のように勢と勁を涵養していきます。「白打」

①坐法・基本功・行気・内丹・理論で意(心の働き)と気を練る
②套路(大架式及び中架式)及び站椿・運気法などで意気による勢いを知る
③対錬及び套路(小架式や老架式、武架式)/その勢いで勁を知る(招式から高度なものは散手対打)推手、大扌履などは補足

■そして、太極拳の武器は下記の順にすすみます。しかし、武器を習うためでは無く、太極の理法を深めるためのものです。『その他の武器』

①太極剣で大架を練る(剣の遠くに勢をめぐらす)※套路の大架と連動(実物と同じ重さ、約2キロの剣を使います)
②太極刀で大架・中架を練る(遠くの円圏と刀の刀身に勢をめぐらす)※套路の中架と連動(上記の写真は、当会で使う太極刀です。2.4キロある本物と全く同じ重さの刀です。)
③扎桿で大架と中架を合わせる(扎桿は長いため、遠い桿先までにも勢が巡り、近い桿心にも勢が巡る)※長さ4m以上の竹や物干しを使います。
但し、楊式には扎桿と同じように勢を練るための「綿棍」ともいう棍術もありますが、武器術というよりも套路に近いもので、武器術の棍とは分類します。
④勁で打つ武器を習います。(全て大架、中架に包括された小架式です。武器は末尾****武器参考***)

■太極拳刀剣桿散手合編の著者で、武当派楊式太極拳の高手陳炎林の書籍でも、扎桿までしか武器法をのせていないのには理由があります。

武器の使い方だけを覚えても、武器どおしであれば相手を制することができないばかりか、もしも太極拳により太極の理を身に思い出しかけていても、思い出しきっていない限りは、折角の太極の理を見失うことにもなります。

武器術は諸刃の剣であることを忘れてはなりません。

棍などの武器術は大架、中架、小架を全て含むので、対錬で勁を全て思い出していないとやればやるほど、勢いが横道に外れます。
手足の動作だけで、誰でも簡単に棍が動かせるからです。練習すればクルクル回すなど、誰でもできます。
従って、勁を全て思い出していないと棍などの武器を習うことはしません。太極拳の勢いが無くとも棍が動くことを覚えてしまうからです。
体は、違和感で分かりますが、武器に支配されてしまうとそれがわからなくなります。
逆に武が域に達すれば、自分の体のようにどのような武器も太極の理で使用できます。

随って、自分の体以外のもの(武器)を持つ場合、まず大架(中小を包括する)を練り、中架(大に包括され、小を包括する)を練り、小架(大中に包括される)を練ります。

棍で言えば、誰でも簡単にできるのが拙棍、そして、最も難しいのが懂棍であり、他の武器に対しても同じ考えです。

楊式太極拳では、武器は太極剣・刀・扎桿を順に習います。(陳炎林もそのような順番になっているところなど、全く同じです)

逆に、太極拳の勁を全て思い出し、太極剣・刀・扎桿を身につければ、その後は多くの武器術の一つとして自分の好きな武器『棍」を習うのですが、太極の理により高手に達していれば、通常は全て同じように使えます。

****武器参考***

●棍棒(長い棍『樫のような背よりも高い堅い木「棒」から、軽い柔らかい木の眉の高さぐらいの「棍」などがある」また長さは半分、またその半分まであり、また三節棍、二節棍(ヌンチャク様)、拐(トンファー様、刀になったものは鶏爪鋭)●打虎棍(先に拳状塊がついたカーブを描いた短い棍棒)
●太極針(点穴針※左の写真)、吐針(咆哮を使用して口から短い鉄針を吐く)●短刀●鎌(れん=鈎鎌剣など)●斧(ふ・両方に刃があるものを太極斧)●鉞(えつ=まさかり/両方に刃があるものを太極鉞)
●打虎袋(だこたい・革袋に丸い石を詰めて振り回す武器)●鞭(硬鞭「七節鞭」「九節鞭」・軟鞭・双鞭・単鞭)
●戈(か=ピッケルのようなもの)●撾(棒の先に戈を付けたり、ひっかくような金具を付ける)●矛(両刃の剣に長い柄をつけた大昔の武器)●槊(さく=やりのようなもの)●殳(しゅ=刃のない棒状の戈)●戟(げき・戈と矛が一体になったもの)●圈(円形の輪の鉄武器、風火輪/日月陰陽環など)●環(かんー単なる鉄の輪)
●筆架叉(十手のようなもの)●大刀「斬馬刀」●盾●弓●弩(大弓)●太極鐧(たいきょくかん=特殊警棒のようなもの)
●叉(先が二股以上に分かれているような刀)●耙(は=熊手の大きいもの)●鍬(しゅう=いわゆるクワ)●鎲(とう=とげとげしいサスマタのようなもの)
●縄術(投げ縄や縄による捕獲・綿縄套索「めんじょうとうさく」)●打虎錘(すい=分銅を鎖に付けたもので片方に鎌を付けたものが鎌錘)
●牌(はい=正方形の端を鋭利にしたりする手裏剣のようなもの、投石なども含む)
●鎲(さん=スコップのような武器)●鉄扇●杵(しょ=きねのような武器)●弾弓(だんきゅう=パチンコのようなもの)
などなど

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