桃源郷の香りと味がする太極拳

 20代から太極拳を友としてからは、坐道や内丹、套路の時も武道練習の時も、口の中に甘い味がいつも満ち、キンモクセイのような香りに包まれていて、まるで桃源郷にいるような感覚は、今やあたりまえになっています。

今の武当山ではなく、古き武当山の太極拳でもそのような感覚の中で全てが行えるようになるのを目指していたと言うことです。行気を教わったときに、その味と香りがすることを追い求めるようにすれば、おのずと太極拳は高手になると言われ、幸い、すぐに桃源郷の中で全てが行えるようになり、今もそれは変わりません。

 私が執筆した書籍『簡化24式太極拳で骨の髄まで練り上げる技法』の行気の技法の中で、所々に口の中に甘い味があふれ出たり、キンモクセイのような甘い香りがすると書いています。今は日常の生活の中でも桃源郷のような感覚は離れませんが、最も強くその味が現れたり、香りがするところだけを記しました。

 『簡化24式太極拳で骨の髄まで練り上げる技法』にも掲載しましたが、八段錦にある叩歯鳴鼓(こしいめいこ)は、親指を耳の下に当てて、耳の後ろを示指ではじき歯を噛み鳴らす導引法ですが、正しくやると驚くほどの甘い味が口の中に染み出てきます。もちろんそれに伴いキンモクセイの香りも漂います。又、赤龍攪水(せきりゅうこうしすい)は舌を赤龍とみなし口の中で暴れさせ、たっぷり出た唾液を飲み干すという内丹法ですが、坐道を行い、あるレベルに達したときに出る唾液は、とても甘く、それをのみ込むと不老長寿だけで無く、骨や筋肉・内臓が強靭になり、骨や歯、爪や髪の毛が発育し、皮膚の防衛機能が高まると言われていました。

この甘い味や、キンモクセイの香りは、私が知っている太極拳では古くからあたりまえでしたが、つい最近、あることから耳の下にある耳下腺からのみ、副交感神経が優位の時にたっぷりと出るといわれる、唾液腺ホルモン「パロチン」の存在を知りました。

 このパロチンは、幕末の蘭学者・緒方洪庵の次男である緒方惟準の四男「緒方知三郎(おがた ともざぶろう、1883年1月31日 – 1973年8月25日』が発見し名付けたそうです。東京生まれで、東京帝国大学医科大学(現在の東京大学医学部)を卒業した病理学者、脚気や結核、腫瘍の発生、「唾液腺内分泌に関する研究」等を研究し、東京帝国大学医学部教授を経て東京医科大学初代学長になった人物です。

私が驚いたのが、このホルモンが、0.5%の糖分を含む分子量48,000 の糖蛋白質であると説明されていたことです。それも耳下腺からのみ出ると言うことで、これだけでも、古き太極拳の人々の驚くような感受性と、経験科学のすごさには度重なる納得をするばかりです。

そればかりか、その研究説明には「哺乳(ほにゅう)動物の新鮮耳下腺から抽出した唾液腺ホルモン「パロチン」は、軟骨組織の増殖、歯牙(しが)や骨の石灰化の促進、弾力線維や結合組織*の発育促進、細網内皮等の賦活(ふかつ)、胃の運動亢進(こうしん)、窒素平衡の是正などの薬理作用を有し、胃下垂症、変形性関節症、歯周炎、さらに筋無力症にも応用される。」と記されています。

他には、30代ごろから分泌が減少し、それが減少するにつれて老化が進行することや、副交感神経が優位であるときに多量に分泌されることが説明されており、古き武当山の太極拳が伝える内丹が、医学が発達してその一部分がまた科学的な証明が為されていたのだと思うばかりです。私がつい最近まで、パロチンの存在を知らなかっただけですが。古き武当山の太極拳の経験科学のすごさには、もう今更納得することもないほどです。

余談ですが、ロイヤルゼリーには『類パロチン』という、パロチンと同じ効果を現す薬効があるという記事も多く見つけました。

今も私の口の中には、甘い味と鼻にはキンモクセイの香りが上がってきています。

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